市場原理の観点から考えるチケットノルマについて

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安城です。

チケットノルマとかチケットバックってそもそも何っていう話を市場原理の観点から考えてみたいと思います。

まず、いわゆる商業演劇は何で成り立っているのか、ということですが、これは、大部分はスポンサー収入やあるいは、作家、演出家、出演者を目当てにした観客のチケット売り上げ、ということになります。
当然、多くの観客を集めるには携わる人間のネームバリューが必要です。
商業演劇でも演技の実力問わずにアイドルが起用されるのはそのためです。アイドルは桁違いの集客力がありますから。

テレビドラマだって同じですよね。スポンサーという出資者がいて、そのスポンサーは、局がこれくらいの視聴者が見てくれるようなものを作ってくれるだろう、と計算をして出資します。制作側はその期待に応えるために、視聴者が見たいと思うような作品を作る必要があります。その最も簡単な方法は「有名人」を起用することです。
仮に僕が演技の天才でギャラが安くても「佐藤健」の方が絶対視聴率は取れると制作者が考えれば、佐藤健を起用します。もし彼のギャラが高すぎて予算を超えてしまうようなら、もう少しギャラの安い若手有名俳優を起用しよう。それが市場原理の働きです。そしてタレントそれぞれの価値が(あまりこういう言い方は好きではないけれども)市場価値です。

どちらも共通して言えることは、起用するタレントに市場価値があるか否かです。市場価値とは、集客力、作品を作る為に求められる実力が基準となります。
そして制作側はタレントの市場価値に応じて対価(=ギャラ)を支払います。

市場価値が及ばなければ、その人は永遠に舞台には立てません。テレビにも出れません。ギャラももらえません。

しかし、舞台に立てなければ、基本的に演技力は上がりません。知名度、認知度も上がりません。一生を棒に振るのでしょうか。
では、どうすればいいのか?



その点はさまざまな選択肢があります。が、今回はその一例を上げます。
例1:演技の養成所や演技ワークショップ、演劇大学、専門学校で演技を勉強する。
例2:チケットノルマを負って舞台に出て経験を積む。

たいていの俳優はその両方だと思います。

どちらの例にも言えることは、俳優が実力や認知度を上げて行くための「投資」だということです。

投資に見合った成果を得るためには、優れた制作能力を持った団体を選ばなければなりません。しかし、制作側も作る作品に相応しい俳優を起用しなければならない。
「例え100枚のチケットノルマがあっても出たい。」と役者が思うのであれば、そのチケットノルマ自体は悪でもなんでもないです。
チケットノルマが悪だとすれば、養成所のバカ高いレッスン代はなんなのでしょう(笑)という話です。(批判しているわけではありません)


いずれにしても、養成所や劇団にその投資をするだけの価値があるか否かが重要なのです。なければ市場から淘汰される。それだけの話です。

そして、いつしか、ある一定の市場価値を得ると自然とギャラが出るようになったりします。その関係性は言うには及ばず、市場原理の問題です。



制作側視点で言えば、若手の制作者(つまり我々)はスポンサーを付けることは非常に難しいです。となれば、基本的にはいやしくも財源を俳優のチケット売りに依存します。


しかし、作る作品が駄作、環境が悪い等、制作者に実力がなければ、いい役者は集まりません。いい役者が集まらなければ、いい商品にはならず、最終的には市場から淘汰されるでしょう。


いい商品を提供し、顧客(あるいはスポンサー)を獲得し、よりよい俳優を起用する。このプロセスは一般企業と同じでしょう。そうして行かなければいつまで経っても業績は上がりません。
制作側も生き残りをかけて競争にさらされているのは俳優や一般企業と同じです。



そして正攻法で生き残ることのできない制作者がヤクザまがいの方法で役者から金を巻き上げようとするんです。
しかし、どの業界、世界のどこに行ってもそういう輩はいます。
重要なのは、そういう輩のカモにならないことです。
僕は、一度タレントさんを対象にタレントとして必要最低限の法律知識をテーマに法律講座を開きました。
フリータレントだろうが所属タレントだろうが、個人事業主なんです。自分の”社長”なんです。
ゴミに引っかからないように相手を見極めるのは、自分の義務だと思います。




おそらく、たいていの方々はこの手の話は感覚では分かっていることだと思います。
しかし、演劇人のようなクリエイターは時として「いい・わるい」のような感情論に走りがちです。感情論を否定するわけではないのですが、本質を見落としては、本末転倒。

これらの芸能活動が趣味ではない以上仕事である以上は、程度はあるにせよ市場原理から離れることはできません。

なので今回は市場原理の観点からチケットノルマの本質について話してみました、

ありがとうございました。

あんじょう