「比翼連理の果て」2019振り返り

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本年8月18日、「比翼連理の果て」2019無事全日程を終了いたしました。

 

ご来場頂きましたお客様方、裏で支えてくれたスタッフ方、そして俳優達に深くお礼申し上げます。
今回、現代日本で問題提起がなされてから久しい「介護」を軸にしたお話でした。

 

おそらくこのお話をご覧になられた方はお気づきかと思いますが、この話は社会や制度と言った言わば政策面について問題提起を促すものか、というと必ずしもそうではありません。

個々のそれぞれの人生の生き方や人との接し方、関わり方、最後の迎え方、など、1人ひとりが十人十色の捉え方をされたことと思います。とにかく、この話は、この介護の問題を通して、生活の根本的な部分について一度思いを巡らせて頂けたらという思いで作りました。

・稽古について

本格的な稽古が始まったのは7月。

7月と言えば……

――東京の都心で、日照時間が3時間未満の日が13日までで17日連続となった。13日までの10日間の日照時間の合計は東京の都心が2.9時間で平年の7%、さいたま市が2時間で平年の5%だという。NHKニュースが報じた。日本気象協会によると、都心で17日連続で日照時間が3時間未満となったのは31年前の1988年以来。――

 

7月の稽古は今思い出してもあの頃の陰鬱な気分が蘇るほどの上がらない気分との闘いでした。

またそれは日光の有難さを心と身体の全てで体感した日々でした。

今、あの日々を思い返して言えるのは、劇中の茂男のことです。

 

彼はが妻、幸江の介護で昼夜が逆転の生活を余儀なくされていました。日の光を満足に浴びることのできない生活というのはいかに人の精神に悪い影響を与えるのか、茂男の苦悩を伴う生活と、我々の生活を単純に比較はできませんが、その先端に思いを馳せることはできたのではないかと思います。

7月は両キャストを「現代組」「回想組」に分け、個別に稽古を行っていきました。


特に回想組は、現代人とは全く違った、言葉遣い、イントネーション、経験、価値観を持っているため、役作りを徹底することを求められました。

今回、稽古で一部の俳優を取り上げて、役作りの過程を動画で残すという試みをしました。
筆者はまだその内容を確認していませんが、日を増すごとに俳優の顔つきや動作が変わっていく過程は記憶を追うだけでもはっきりと認識できるほどのものでした。

 

・介護について

今回、来場者268名(述べ)の方のうち165名の方からアンケートのご回答を頂きました。
その中で自身の介護の経験に基づいたご意見が少なくなかったことから、「介護」がいかに多くの方にとって身近で他人事ではない話であるかということを肌で実感しました。

 

介護について形は色々あるとは思いますが、多くの場合誰かの「犠牲」によって成り立っているのではないかと思います。

その逆説的な例として、現行のイギリスの介護保険制度では、週35時間以上介護に時間を費やしている人に対して、一定の現金給付があります。
これは、国家が在宅介護を「労働」として認めていることの現れです。

上の視点のみから考えれば、「無償の介護」=「犠牲」ということになります。そして日本では多くの人がその犠牲を否応なしに強いられているのではないかと思います。※1

ここであえて問いたいのは、認知症という病は間違いなく遥か遠い昔から存在していたはずであり、認知症は人間が老いる過程で、一定数の人がかかる病であるのにも関わらず、なぜこの現代になって認知症に関連する介護が深刻な問題になっているのか、なぜこうも「犠牲」を一人、もしくは少人数で強いられる場面が多いのかという部分です。

もしその原因が、核家族化や世帯当たりの子供の数の減少や血縁関係同士の関係の希薄化、地域関係の希薄化、だったとしたら、
もしそれが、行き過ぎた医療の発達やそれに追いつかない尊厳死という概念だったとしたら、
その解決策の全てを国や自治体の政策に求めるべきなのでしょうか。

もしかすると、今すぐにでも自分自身や身の回りから変えられることがあるかもしれない。
そんな風に思います。

※1例えば、介護の貢献に応じて遺産が多くもらえるような条件が付いているようなケースはここでいう「無償の介護」ではないと考えます。

 

・演出について

前回に引き続き、ダブルキャストをそれぞれ「ドビュッシーキャスト」以下(DまたはDキャスト)「リストキャスト」以下(LまたはLキャスト)と銘打ち、作中の挿入楽曲、そしてそれぞれ異なった演出で異なった世界観を作り出すよう努めました。

この演出の違いについて、Dキャストは、昨年の初演を踏襲した形となりました。

劇中の林夫妻は神戸で2009年に起きた認知症妻殺害事件の当事者夫婦をモデルとさせていただいています。

この夫婦の顛末を知ったとき筆者は、夫婦のあり方、夫、そして妻がそれぞれ伴侶に対する姿勢のあり方、この国の家族のあり方などを筆者なりに考えさせられ、最終的にあのようなラストを演出するに至りました。
しかし、初演が終わってからこれまでの間、(「月の光」の中で、最後の刻を迎える老夫婦の姿でこの話を閉じてしまうだけで本当に良いのか?)と一年の間自問自答がありました。

現実は、もっと血生臭く、陰惨で、無情なものであって、モデルの夫婦は最後に美しい音楽を楽しむような心の余裕はなかったはずなのです。

しかし、演劇という場所で現実や問題だけを突きつけても自己満足になりかねない。
そういった葛藤から、キャスト毎に演出を変えるという方法に行き着きました。

D・キャストは一つの美の終着地
L・キャストは一つの悲劇的現実

そんなイメージでした。

また、一つの作品として楽しんで頂けるようDとLで挿入曲もそれぞれ入れ替えました。

メインテーマ
D「月の光」
L「葬送曲」

美希の「本気で取材して欲しいんです」から幸江の登場
Ⅾ「グノシエンヌ」
L「葬送曲」

裁判形式での茂男の語り
Ⅾ「夢」
L「眠りから覚めた御子への賛歌」

山岡と美希のラストシーン
Ⅾ「アラベスク第一番」
L「孤独の中の神の祝福」

――最後に

今回、稽古期間中に「東京リハビリテーションセンター世田谷様」にキャストを伴って取材形式で施設の見学をするという機会を頂きました。


その際、現場の生の空気間そして、現場の生の意見に触れることができ、作品の質はもちろん、俳優たち個々にとってもかけがえのない経験となりました。
関係者の方々、そしてこの縁を作ってくれたアクトメンバーの大関愛には深くお礼申し上げます。
上に挙げた方以外にもお名前は割愛しますが多くの方々の支援と協力を頂いて、「比翼連理の果て」をつくりあげることができたことに同じくお礼申し上げます。

この作品、そして「介護」を軸にしたこの社会の在り方に対する思索はまだまだ始まったばかりだと思っています。

今後さらに飛躍と発展を遂げた形で皆様にお見せすることができるよう、筆者含めアクトメンバー一丸となって取り組んでいきますので、今後とも宜しくお願い致します。

改めまして、本当にありがとうございました。

2019・08・27  安城龍樹

「比翼連理の果て」8月15日~18日 平賀スクエア

製作美術:大関愛

宣伝用ビジュアル撮影:大関愛

衣装小道具:税所千珠、中島佳菜

音響照明:上野晴行

協力:(株)平賀スクエア、(シャ)東京リハビリテーションセンター世田谷

 

使用曲

「月の光」
「夢」
「アラベスク第一番」
以上クロード・ドビュッシー

 

「葬送曲」
「眠りから覚めた御子への賛歌」
「孤独の中の神の祝福」
以上フランツ・リスト

「グノシエンヌ」エリク・サティ

「Misty」エロール・ガーナー
「白い花の咲く頃」岡本敦郎
「ベサメムーチョ」黒木曜子
「すみれの花の咲く頃」演奏者不明
「月がとっても青いから」菅原都々子

 

映画「秋刀魚の味」主題曲、終曲
映画「彼岸花」主題曲 以上、斎藤高順

 

作・演出:安城龍樹